【英語・国際】 ハント外務・英連邦大臣の動きから見るイラン情勢とその向こう側

【今日の一文】

原文:There is still some closing, but small window to keep the deal alive.(1)

 
 
 
 

日本語訳:(イランとの交渉に関しては、)やはり終結してしまうこともあった。しかしながら、我々連合国との間に横たわる核開発問題に関する交渉を継続するための「小さな窓」があるのも事実だ。

 

・still:「今もなお」、「依然として」といった過去からの継続のニュアンスを帯びる副詞ですが、訳出が難しいですね。この場合は、継続というよりも「案の定」、「予想されていた通り」、「(記者の・世界中の)皆さんがご察しの通り」といった話者と聞き手の間の情報の一致ということで訳出してみました。安全保障に直結する重要テーマに関するイランとの対話が決して容易なものではないという一般論やここ数か月の(特に対米関係で顕著なところの)交渉の難しさを反映しているのではないでしょうか。

 

・closing:何がcloseしたの?という疑問が飛びますが、恐らく一般論としての「終焉・終結」ではなく、直後に来る”deal”に掛かるからこそ、何がcloseなのか明示的な言及がないと考えられます。国家間交渉が毎度毎度は上手くいかず、期待する通りには行かないケースもあったということです。(2)

 

・to keep the deal alive:文法的には動詞keepの不定詞の形容詞用法で、small windowを修飾します。(A) small window keeps the deal alive. というSVOCの文型を見抜きましょう。dealというのはビジネスにおける取引に使われることが多いですが、この場合は国家の要人の発言ですから、deal with Iranということで「国家間交渉」という認識で間違いないでしょう。

 

【概要】

イギリスの外務・連邦大臣であるJeremy Hunt氏が取り上げられたロイター通信の記事です。アメリカ・イギリスを中心とする連合国とイランとの間で高まる緊張を緩和するべく、イギリスはアメリカとは強調しつつも独自の戦略を有すると主張します。完全な破棄が危惧されるところのイラン核合意(3)の維持や、イランとの友好関係に基づく核問題へのアプローチに向け意欲的な姿勢を示した。

 

【考察】

A. 連合国とイランとの緩衝国という以上のイギリスの地位の暗示

国際社会の安定と平和に向け世界一の軍事大国アメリカと二人三脚でリーダーシップを発揮するイギリスであるが、イランに対してはその石油資源に対する利権維持のためには軍事的手段さえ辞さない姿勢を名言した過去を持つ。(4)1953年イランでのクーデターの際にはアメリカとの緊密な連携下での対イラン政策を疑われたイギリスであるが、今回はfriends sometimes disagreeとアメリカとの方針の違いを公式な場で述べた。中東問題の中でもイランに関して歴史的なプレゼンスを固持しようとするイギリスの主張という解釈は短絡的であると筆者は考える。つまり、世界の警察という立場から”America First!”の掛け声とともに方針転換を図るアメリカの安全保障体制の転換との関係性を読み解きたい。今月上旬のイランの石油タンカー拿捕というリスクをも負った措置に踏み切ったイギリスの相対的なプレゼンスの向上は必然ではなかろうか。(5)

 

B. ハント大臣の頭角

当記事の的であるハント大臣が と取り上げられている点が大変興味深い。世界的なメディアとしての地位を確立するロイター通信がはっきりと述べるからには同氏の今後のイギリス国内での重要な役回りが裏付けられていると筆者は愚考する。ドイツ系メディアが「対話の準備がある」と強調するところのイラン指導者ロウハーニー大統領やザリーフ外相と対峙する連合国側の番頭格としての役割はもちろん(6)、中国出身の妻を持つというステータス上の強みからも将来的な列強との国家間交渉で期待される成果が大きいのではないであろうか。

 

C. 今週ビッグイベントが予測される!?イラン情勢

核問題に最前線で立ち向かう経験を誇るイラン外相ザリーフ氏はアメリカで学問を修めたほか、国連でも人権・軍縮分野におけるエキスパートとして研究・調査に勤しんだ過去を持つ外交・国際問題のプロ。軍事的衝突を回避することが出来るかどうかが、国内外からの注目の対象となる中、国際戦略と情報リテラシーの専門家であり筆者も直接の指導を受けるところの原田武夫先生が指摘するところによれば、2019年7月18日に迫るマーケットの潮目を誘発する要因として使われる一番可能性が検討されているのがイラン開戦リスクである(7)。今後も公開情報をきちんと追ってゆきたい。

 

【引用・関連記事】

(1) Reuters, “Hunt says ‘small window’ to save Iran nuclear deal”, July 15, 2019 / 5:12 PM https://uk.reuters.com/article/uk-mideast-iran-eu-britain/hunt-says-small-window-to-save-iran-nuclear-deal-idUKKCN1UA0PQ (accessed July 15).

(2) TRT, 「イラン外務省がアメリカとの交渉開始報道を否定」, 2019年7月15日, https://www.trt.net.tr/japanese/shi-jie/2019/07/15/iranwai-wu-sheng-gaamerikatonojiao-she-kai-shi-bao-dao-wofou-ding-1235614.

(3) イラン核合意, https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%B3%E6%A0%B8%E5%90%88%E6%84%8F-1822992 (2015年7月に国連安全保障理事会常任理事国6か国とイランとの間で結ばれた合意。イランの核兵器開発(濃縮ウランや遠心分離機等)を大幅に制限するものであり、国際的な核兵器制限・禁止に向けた平和的アプローチとして評価されたものの、2018年5月トランプ大統領が(弾道ミサイルに関する制限や兵器削減の期限がないことを事由として)合意から撤退すると事態は急激に悪化した。)

(4) Abadan Crisis from 1951 to 1954.

(5) The Guardian, “Failure of Iran deal could pose ‘existential threat’, says Hunt”, July 15, 2019, https://www.theguardian.com/world/2019/jul/14/failure-of-iran-deal-could-pose-existential-threat-says-hunt (ガーディアンからも同トピックに関する記事が出ているが、アメリカ勢との方針の違いへの明示的言及ではなく、イラン情勢の緊張の度合いの高さとイラン外相Zarifでさえも拿捕されたイラン船の解放に関しては悲観的な見解を持っているということに注目した報道をしている。)

(6) Deutsche Welle, “Rohani betont Willlen zum Dilog”, July 14, 2019, https://www.dw.com/de/rohani-betont-willen-zum-dialog/a-49589789-0 (2014年キャメロン前首相がロウハーニー大統領と会談して以来、友好関係が続いていたイランとイギリスであるが、メイ現首相による強硬体制のもと緊張再度高まっている。).

(7) 『再論「7月18日に何が起きるのか?」その時、マーケットは?米朝同盟成立という悪夢(原田武夫の道中辻斬りVol. 62)』, 2019年7月2日, https://www.youtube.com/watch?v=FItFECWyuwI.